- 会社設立前に税理士に相談すべき理由
- 税理士なしで運営するリスク
- 税理士と契約するメリット
- 会社設立での税理士費用の相場
- 税理士の選び方3つのポイント
税理士と契約するのは、会社設立後が一般的です。
ところが、あまり知られていませんが、会社設立後に税理士に相談した場合、以下のことで、設立前に相談すべきだったと後悔することがあります。
- 資本金の額の税制上の縛り
- 設立後の手続きの申請期限
- 役員報酬の設定期限
この記事では、税務の実務に通算18年従事して、起業や会社設立などの創業支援もやってきた筆者がその実務経験をもとに会社設立後の手続きや税理士に相談するタイミングについて解説しました。
この記事の執筆者

しょうじ
会計事務所に5回の転職で、5人の税理士のもとで通算18年勤務。そのうち3か所では、No.2として他スタッフの業務管理・指導、事務所のWEBサイト運営や集客にも従事。
これから会社を設立する、または今まさに会社を設立したという方は、税務の手続きで取り返しのつかない失敗をしない様に最後までお読みいただくことをおすすめします。
会社設立は税理士、司法書士どっちに相談?

「会社設立の手続き」に限って言えば、一般的には司法書士に相談します。
というのは、会社設立までは以下の流れで進み、この業務を代行する専門家が司法書士だからです。
会社設立の流れ
- 基本事項の決定
- 定款作成・認証
- 資本金の払い込み
- 登記申請書類の作成
- 会社設立登記
税理士は、この後、税務署、都道府県、市町村への設立届の作成から関与し、会計帳簿の記帳や決算、法人税の申告の業務を行います。
つまり、司法書士→税理士という順番で携わることになるんですね。
ただし、上記は、「会社設立の手続き」に限った話です。
じつは、税務リスクを考えると、最初に税理士に相談をして、「資本金」や「役員報酬」の知識を得たうえで、「会社設立の手続き」の段階で司法書士に相談という流れがベストです。

会社設立前に税理士に相談すべき理由

会社設立前に税理士に相談するべき理由は、
- 資本金の額で不利になることがある
- 青色申告の手続きが間に合わなくなる
- 役員報酬は早期に決定しないと経費にならなくなる
といった税務上の制約があるからです。
これらのことを知らずに会社を設立してしまうと税制上不利になることもあり、やり直しもできません。
事前に税理士に相談することがリスク回避につながります。
資本金の額で不利になることがある
法人の資本金の金額では注意すべきことが二つあります。
- 資本金が1,000万円以上だと初年度から消費税の課税義務がある
- 資本金が1,000万円超だと法人住民税の均等割が高くなる
おもに、この上記の二つが資本金による不利益です。
- 資本金が1,000万円以上だと初年度から消費税の課税義務がある
- 消費税が課税されるのは、簡単に言うと、「2事業年度前の売上高が1,000万円を超えた」ときです。つまり、設立した年と設立2年目は、「2事業年度前」が存在しません。
そのため、免税となります。
ところが、資本金が1,000万円以上だと、この規定はあてはまらず初年度から消費税が課税されます。
No.6501 納税義務の免除
- 資本金が1,000万円超だと法人住民税の均等割が高くなる
- 法人は国(税務署)に払う法人税の他、都道府県と市町村に法人住民税を支払う義務があります。法人税は赤字では課税されませんが、法人住民税は赤字でも「均等割」という法人が存在することに課税される税金があります。
均等割は資本金と従業員数で区分された一定額の税金で、資本金が1千万円以下を最低ライン(自治体によって多少の違いはありますが概ね同等です)に資本金が大きくなるごとに税額も増えます。

青色申告の手続きが間に合わなくなる
法人にも青色申告という制度があります。
所得税の青色申告は浸透していますが、法人にも青色申告があることはあまり知られていません。
法人の青色申告の承認申請書の提出期限は
設立の日以後3月を経過した日と当該事業年度終了の日とのうちいずれか早い日の前日まで
になります。
税理士だと、設立したら「青色申告の申請が必要」とパッと思いつきますが、一般的にはあまり浸透していないので、提出漏れのケースは少なくありません。
青色申告を適用しないと、赤字で生じた欠損金を翌期に繰り越すことができません。設立初年度は赤字になることが多いので、その欠損金を繰り越せないのは、税務上は大きなデメリットです。
役員報酬の決定期限
会社を設立すると代表者は会社から役員報酬として給与を受け取ります。
会社の役員は、会社法上、「会社の運営を株主に依頼され執り行う仕組み」になっています。そのため、役員報酬は、会社法上株主総会で決定されます。株主総会は決算後3ヶ月以内に行われるため、毎年の役員報酬も決算後(=期首から3ヶ月以内)3ヶ月以内に決定します。
この仕組みは税務上も準拠するので、法人税法では、期首から3ヶ月以内に役員報酬を決定し、毎月同額を支給しないと損金になりません。
設立事業年度も同様で、設立した日から3ヶ月以内に役員報酬を決定し、毎月同額を支給しないと損金になりません。
税理士以外でこのことを知っていることは、ほとんどないので、会社設立後、早期に税理士に相談してなくて設立初年度は役員報酬が損金にならなかったというケースは実務上大変多いです。
税理士なしで運営するリスク

会社を設立したら、税理士と顧問契約をすることをおすすめします。
個人事業主の確定申告だと税理士に頼らず自分で申告する人も多数います。ところが法人での税務申告は同じように考えてはマズいです。
というのは、会社を設立したら、個人事業とは以下の点で違ってきます。
- 法人税の申告書作成は難しい
- 課税関係が複雑になる
- 税務調査の可能性が高まる
法人税の申告書作成は難しい
所得税の確定申告と比べ物にならないほど法人税の申告書は難しいです。見よう見まねでできるほど簡単ではないので、専門家に任せるのがベストです。
所得税は基本的に申告書が1表・2表と2枚に、青色申告でも決算書が4枚程度です。
ところが、法人税は申告書だけで十数枚、それに決算書と勘定科目明細が十数枚、事業概況説明書という書類が2枚というように圧倒的にボリュームが多いです。
また法人税の申告書は別表一から順番に作るのではない点でも知識がないと苦労します。
課税関係が複雑になる
会社を設立すると、事業上の主体は法人になります。売上の入金も法人口座になりますが、よくあるのが法人と代表者個人のお金を混同してしまうことです。
法人の預金口座から現金を引き出して個人的に使用すると、法人から代表者への貸付金になります。
じつは、あまり知られていませんが、
法人から代表者への貸付金は利息が発生します。
No.2606 金銭を低い利息で貸し付けたとき
つまり、決算においては法人では受付利息として収益を計上します。収益を計上するということは法人税の課税につながることになります。
また、この貸付金が長期間返済されないようであれば、税務調査では、「返す見込みがない=あげたたものと同様」として役員賞与とされる可能性もあります。
役員賞与とされる場合には、今度は代表者に対して所得税が発生することになります。
税務調査の可能性が高まる
個人事業主と比べて、法人は数も少なく、一般的に個人事業より取引規模は大きくなる傾向にあります。
そのため、税務調査の可能性は高まります。
つまり、会社を設立したら、税務調査を想定しておくことが大事になります。
ところで、税務調査で調査官が見たいのは、何かご存知ですか?調査官が見たいのは、提出された申告書や帳簿ではなく、不自然な現金の動きです。
ですから、税務調査を想定すると、通常の取引の中で
- 銀行預金を通しておいた方が良い取引
- 覚書などの書面を作成しておいた方が良い取引
というのが必ずあります。
これを税理士からアドバイスを受けずに放置しているのは、税務調査で問題になる火種を放っておくのと一緒で大変危険です。
税理士と契約するメリット

税理士と契約するメリットはたくさんありますが、代表的なものをあげてみました。
税理士契約のメリット
- 税務調査はもちろん税務署対応も任せられて安心
- 会計データの入力など面倒なものを代行してもらえるので楽
- 正しい実行可能な節税ノウハウを享受できる
- 電子帳簿保存など重要な改正も対応してもらえる
税務調査はもちろん税務署対応も任せられて安心
税務調査に立ち会ってもらうのは当然ですが、税理士に申告書の提出や設立届などを依頼すると、「税理士名を署名して提出」します。
(一般的には、申告書の場合、「税務代理権限証書」を添付して提出します。)
すると、税務署からの問い合わせは、すべて税理士の方にいきます。慣れない税務署対応で振り回されたりすることなく安心です。
会計データの入力など面倒なものを代行してもらえるので楽
会計の中で一番面倒なのが、帳簿を作成する記帳処理です。会計データが普及しているとはいえ、会計ソフトへの入力は大変です。税理士と契約すれば、多くの場合、記帳代行料は発生しますが、記帳を代行してくれます。
会計処理の時間は、事業の上では何も生まない、非生産的な作業ですので、楽なうえにその分の時間を確保できるのはビジネスにとっても大変プラスになるでしょう。
正しい実行可能な節税ノウハウを享受できる
節税ノウハウといってもネットなどの情報には、税務調査では否認されるものや脱税まがいのものなどが散見されます。税務に精通してないとあたかも効果があるように解釈してしまいがちです。
節税するなら、正しい税務知識のある税理士からの提案の方が安心です。
電子帳簿保存など重要な改正も対応してもらえる
2022年1月改正予定だった電子帳簿保存ですが、2023年12月までに行われたものに関しては紙保存が認められます。ただ、今後は電子データでの保存が進んでいくのはまちがいないです。
一見、電子化は便利なようですが、保存方法にも要件があり、実務上は正確な手続きが求められます。
例えば、「検索機能の確保」もその一つで、電子データの保存の際は、
- 取引年月日
- 取引金額
- 取引先
で検索できるように、
- ファイル名を「20221031_(株)国税商事_110000」等にしてデータを保存する
- Excel等で索引簿を作成し、保存したファイルと関係づける
など細かい対応が求められます。
経済産業省:どうすればいいの?「電子帳簿保存法」
現実的には、保存要件を満たさないことで税務調査で否認されることも十分あり得ます。
税法の改正の情報収集や対処方法についても、専門知識でアドバイスしてくれる税理士がいるのといないのとでは大違いです。
会社設立での税理士費用の相場

会社設立をしたときの税理士費用ですが、設立自体を税理士が代行することはなく(仮に行っている場合、事務所内に司法書士がいるか提携の司法書士に外注しているかになります。)、設立に際して税理士費用が必要になることはありません。
会社設立に関する税理士業務は、通常、税務署など行政案庁への届出等で、一般的には無料で対応してくれます。
税理士費用が必要になるのは、その後の契約をする場合で、
- 顧問契約
- スポット契約
といった契約の種類によって、相場も変わってきます。
顧問契約と費用の相場
顧問契約は、月額で税理士費用を払うことで、常時質問に回答し、月に1回程度、会社の財務状況について面談の上、アドバイスしたりします。
税理士費用は、月額の顧問料と年1回決算を行う時に発生する決算料から構成されます。
相場としては、会社規模・業種などにもよりますが、
顧問契約の費用の相場
顧問料:月額1万円~3万円
決算料:顧問料の4~6ヶ月分
となるので、年間にすると、16万円~54万円ほどになります。
スポット契約と費用の相場
スポット契約は、顧問契約と違って、税理士費用が発生するのは、決算料のみです。
月額の顧問料が発生しないので、期の途中での質問対応や面談等は行いません。あくまで決算対応のみとなります。
相場としては、会社規模・業種などにもよりますが、
スポット契約の費用の相場
15万円~20万円
となります。
おすすめなのは顧問契約
顧問契約とスポット契約では、どちらがおすすめかと言うと、顧問契約です。
決算や法人税の申告は専門知識が必要なので、その部分さえやってもらえばよいという考えもありますが、とくに最初は、
- 取引上、課税関係が生じるもの
- 税務調査で問題になるもの
は判断がつきにくく、事前に税理士のアドバイスを聞いてリスク回避するのが賢明です。
税理士の選び方、3つのポイント

会社設立で税理士を選ぶ際のポイントは以下の3つです。
- あなたの業界に強い
- 資金調達に強い
- 創業支援に力を入れている
あなたの業界に強い
税理士を選ぶなら、あなたの事業の業界に強い税理士を選びましょう。
例えば、
- あなたの業種を専門にやっている
- その税理士のクライアントにあなたの同業者がいる
などです。
あなたが美容室・サロン経営なら、美容室・サロン経営専門の税理士や、美容室・サロン経営のクライアントがいる税理士ってことですね。
税務では、業種によって見落としがちなポイントがあったり、税務調査で重点的に見られるツボがあったりするので、同業でのノウハウを蓄積している税理士は頼りになります。
資金調達に強い
起業時や会社設立時には資金が必要です。現在は創業支援の融資制度などは整備されていますが、それでも融資では事業計画書などの資料が必要で一定のノウハウを要します。
そこで、資金調達に強い税理士のバックアップがあれば心強いです。
じつは、あまり知られていませんが、
融資は、創業時の方が創業支援などの融資制度が拡充されていて、受けやすい傾向にあります。
というのは、事業開始後一定期間経過すると、その時点での経営成績をもとに融資の審査が行われます。経営成績・財務状況が良ければよいですが、創業後間もないと芳しくないのが一般的です。
一方、創業時に審査を受けると、経営成績や財務状況自体、実績がありません。そのため、あくまで予定である事業計画書をもとに判断せざるを得ないので、融資が受けやすくなるというわけです。
もちろん、融資のノウハウを持つ税理士だとその確率は高まります。
創業支援に力を入れている
創業時の税務は特殊なわけではなく、一般の税理士のスキルで十分対応できます。
でも、なぜ、「創業支援に力を入れている税理士」がおすすめかというと、
会社を設立すると、社会保険の加入義務もあるため、届出関係が以下のように数多くあります。
- 税務署への設立関係の届出
- 都道府県への設立関係の届出
- 市町村への設立関係の届出
- 年金事務所への社会保険の手続き
- 労働基準監督署への労働保険の手続き(雇用がある場合)
- ハローワークへの雇用保険の手続き(雇用がある場合)
調べればわかりますが、行政官庁から手続きをするように呼び掛けすることはありません。そのため、専門家のアドバイスなしでは漏れや不備が発生することもあります。
創業支援に力を入れている税理士なら、
- フットワークが軽く積極的に手続きをやってくれる
- 判断に迷う時は経験に基づくアドバイスをしてくれる
といったメリットがあり、創業時でわからないことへの不安が払しょくされます。
税理士の探し方

税理士の必要性や選び方はわかっても、じゃあどうやって探すのかが疑問ですよね。
税理士の探し方としては、
- インターネットで自分で検索
- 友人・知人に紹介してもらう
- 銀行に紹介してもらう
- 税理士会で紹介してもらう
などの方法がありますが、失敗したくなければ、この4つはおすすめしません。
失敗したくなければ、税理士紹介サイトをつかった方法がおすすめです。
その理由は、、
ポイント
- 希望の税理士を自分で探さなくてよいから楽
- 税理士に一定の信用の担保がある
- 複数の税理士と面談の上、相性の合う税理士を効率的に選べる
- 登録税理士内の競合があるので税理士費用が抑えられる
- 断るときは担当者が代行するのでストレスがない
税理士の探し方についてはこちらの記事でくわしく解説しています。合わせてご覧ください。
税理士の探し方でよくある失敗例4選とおすすめの方法
税理士の探し方でよくある失敗例4選とおすすめの方法
まとめ
会社を設立するなら、設立前に税理士に相談しておきましょう。
その理由は
- 資本金の額で不利になることがある
- 青色申告の手続きが間に合わなくなる
- 役員報酬は早期に決定しないと経費にならなくなる
といった税務上の制約があるからです。
その際、税理士を選ぶ際のポイントは以下の3つです。
- あなたの業界に強い
- 資金調達に強い
- 創業支援に力を入れている
税理士を探すにあたっては、
税理士紹介サイトがおすすめです。
税理士の探し方についてはこちらの記事でくわしく解説しています。合わせてご覧ください。
税理士の探し方でよくある失敗例4選とおすすめの方法
税理士の探し方でよくある失敗例4選とおすすめの方法
最後までお読みいただきありがとうございました。